精密板金加工とは?特徴や板金加工との違い、加工方法など解説 | 株式会社タキオンワタナベ

コラム

精密板金加工とは?特徴や板金加工との違い、加工方法など解説

2025年4月17日

精密板金加工は電子機器や医療機器、半導体製造装置などの高精度部品製造に欠かせない技術です。イニシャルコストを抑えながら複雑な形状の製品を少量多品種で製造できるメリットがあり、製品開発において重要な役割を果たしています。

本記事では、精密板金加工の基本的な特徴から他の板金加工との違い、具体的な加工方法まで詳しく解説します。

精密板金とは

精密板金とは

精密板金は、普通の板金と異なる特徴や違いを持っています。まずは精密板金の特徴や用途などについて見ていきましょう。

特徴

精密板金加工の主な特徴は、高い寸法精度と複雑な形状への対応力です。

曲げ加工では±0.2mm以下、抜き加工では±0.05mm以下という厳しい寸法公差を満たすことが求められます。専用の工作機械と熟練した技術者の組み合わせにより、このような高精度な加工が可能となります。

また、レーザー加工機やターレットパンチプレスなどの最新設備を使用することで、複雑な形状の製品を効率的に製造できるのも特徴の一つです。薄い金属板を扱うため、鉄やステンレスだけでなく、アルミニウム、銅、真鍮なども加工対象となり、様々な材質に対応できる柔軟性も備えています。

用途

精密板金加工は様々な産業分野で活用されています。主な用途を業界別に見ていきましょう。

医療業界

医療機器業界では、内視鏡や手術器具、医療用筐体など、高い精度と清潔さが求められる製品に精密板金加工が活用されています。特にステンレス製の医療機器部品は、耐食性と衛生面で優れた特性を持つため、精密板金加工による製造が適しています。

医療機器には高い品質基準が設けられているため、精密な寸法精度と表面処理が重要です。加えて、複雑な形状の小型部品も多く、精密板金加工の技術が大いに貢献しています。

食品業界

食品業界では、食品加工機械や製造ライン用の部品、搬送用シュート、ホッパーなどに精密板金加工が用いられています。食品と接触する部分には、主にステンレス製の部品が使用され、衛生面と耐食性が重視されます。食品製造装置は洗浄が頻繁に行われるため、水や洗剤に耐える材質と構造が必要です。

また、食品業界では食品安全規格に適合した製造が求められるため、バリや鋭利な角がなく、清掃しやすい設計が重要です。精密板金加工はこれらの要求に応える優れた加工法として広く採用されています。

半導体業界

半導体製造装置やクリーンルーム内の機器部品など、極めて高い精度と清浄度が求められる製品にも精密板金加工は欠かせません。半導体業界では、微細なパターンを形成するための精密な部品や、クリーンな環境を維持するための筐体などが必要とされます。

これらの部品には、寸法精度だけでなく、発塵や異物混入を防ぐための表面処理や仕上げも重要です。精密板金加工は、これらの厳しい要求に応えられるため、半導体業界における重要な加工技術といえるでしょう。

板金との違い

板金加工にはいくつかの種類があります。精密板金加工と他の板金加工の違いを理解することで、それぞれの特徴と適した用途が明確になります。

自動車板金

自動車板金は、自動車のボディの修理やカスタマイズに使用される板金技術です。主に打ち出し板金やたたき板金とも呼ばれ、ハンマーなどの工具を使って手作業で金属板を叩いて形状を整えます。

精密板金加工が工場での製造工程であるのに対し、自動車板金は修理工場で行われることが多く、金型や機械を使わない手作業による加工が中心です。精度よりも元の形状への復元や外観の美しさが重視され、職人の技術と経験に大きく依存する加工方法です。

プレス板金

プレス板金は、専用の金型を使用して金属板を成形する加工方法です。一度金型を製作すれば、同じ形状の製品を高速で大量に生産できるため、大量生産に適しています。精密板金加工と比較すると、イニシャルコストが高く、金型の製作に4〜6週間の納期と数十万〜数百万円の費用がかかることがあります。

しかし、生産量が多くなるほど1個あたりのコストは下がるため、量産品の製造に適しています。精密板金加工が少量多品種生産や試作に向いているのに対し、プレス板金は単純な形状の製品を大量に生産する場合に適しているのが大きな違いです。

建築板金

建築板金は、建築物の屋根や外壁、雨樋などの外装部分に使用される金属部品を製作・施工する技術です。主に鉄、ステンレス、アルミニウム、銅などの金属板を曲げたり、折り曲げたりして形を作り、建物に取り付けます。精密板金加工が精度を重視するのに対し、建築板金では雨水の浸入を防ぐ機能性や外観の美しさが重視されます。

また、建築板金では1mm〜10mmほどの比較的厚い金属板を扱うことが多く、精密さよりも耐久性や強度が求められる点も違いの一つです。

精密板金加工の3つのメリット

精密板金加工の3つのメリット

精密板金加工には多くのメリットがありますが、特に重要な3つのメリットについて詳しく見ていきましょう。

より複雑な形状の製品を加工できる

精密板金加工は、レーザー加工機やターレットパンチプレス、プレスブレーキなどの高精度な設備を使用することで、複雑な形状の製品を製造できます。曲げ、抜き、溶接などの様々な加工方法を組み合わせることにより、一枚の金属板から立体的な形状を作り出すことが可能です。

特に、電子機器の筐体や医療機器のように、複数の機能部品を収納するための複雑な形状や、高い精度が求められる部品の製造に適しています。

また、CAD/CAMシステムの活用により、複雑な設計データを直接加工機に取り込むことで、正確かつ効率的な製造が実現できます。

イニシャルコストの削減が見込める

精密板金加工の大きなメリットの一つは、専用金型を必要としないためイニシャルコストを抑えられることです。

プレス加工では製品ごとに専用の金型を製作する必要があり、その費用は数十万円から数百万円に及ぶことがあります。

一方、精密板金加工では汎用金型や治具を組み合わせて加工するため、初期投資を大幅に抑えられます。これにより、少量生産や試作品の製作でもコスト効率よく製造することが可能です。

また、設計変更が生じた場合も、プログラムの修正だけで対応できるため、金型の修正や作り直しに比べて時間とコストの節約になります。

製作から試用までの時間が短縮できる

精密板金加工は、設計から製品完成までの時間が短いという大きなメリットがあります。

プレス加工では金型の製作に4〜6週間かかることがありますが、精密板金加工では1〜2週間程度、場合によっては数日で製品を製作できます。

この短納期は、製品開発のスピードアップや市場投入の早期化に大きく貢献します。特に試作段階では、設計→製作→評価→改良のサイクルを素早く回すことが重要ですが、精密板金加工はこのサイクルの短縮に最適です。

また、急な設計変更にも柔軟に対応できるため、開発プロセス全体の効率化にもつながります。

精密板金加工の方法

精密板金加工の方法

精密板金加工は、設計から完成まで複数の工程を経て行われます。それぞれの工程について詳しく見ていきましょう。

設計

精密板金加工における設計工程は、製品の品質とコストを左右する重要なステップです。まず、製品の用途や要求仕様に基づいて3DCADなどを使用して設計を行います。

この際、加工可能な形状や寸法公差、材料の特性などを考慮する必要があります。設計が完了したら、曲げ加工のための展開図を作成します。金属は曲げると伸びたり縮んだりするため、完成形状から逆算して展開図を作成する技術が重要です。

また、加工効率や組立性を考慮した設計を行うことで、後工程の作業効率向上やコスト削減にもつながります。必要に応じて、強度解析やシミュレーションを行い、設計の妥当性を検証することもあります。

抜き加工

抜き加工(ブランク加工)は、金属板から目的の形状を切り出す工程です。主にレーザー加工機やターレットパンチプレスを使用して行われます。レーザー加工機は、レーザービームを使って金属を熱で溶かしながら切断するため、複雑な形状でも高精度に加工できます。

一方、ターレットパンチプレスは、様々な形状の金型(パンチ)を使って金属板に穴を開けたり、外形を切り出したりします。

どちらの方法も、CAD/CAMシステムで作成されたプログラムに基づいて自動的に加工が行われるため、高い再現性と生産性を実現できます。材料や形状に応じて最適な加工方法を選択することが、品質とコストのバランスを取る上で重要です。

成型加工

成型加工は、抜き加工後の金属板に対して、さらに付加価値を与える加工工程です。主な成型加工には、バリ取り、タップ加工、バーリング加工、絞り加工などがあります。

バリ取りは、抜き加工によって発生した鋭利な突起(バリ)を除去する作業で、作業者の安全や製品の品質を確保するために重要です。タップ加工は、ネジ穴を作るための加工で、後工程での部品取り付けに必要です。

バーリング加工は、板金の一部を立ち上げて筒状にする加工で、ネジ止めの強度向上などに役立ちます。

成型加工は、曲げ加工の前に行うことが多く、後工程での作業効率向上やコスト削減につながります。

曲げ加工

曲げ加工は、平らな金属板を立体的な形状に成形する重要な工程です。主にプレスブレーキという機械を使用し、上型(パンチ)と下型(ダイ)の間に金属板を挟んで圧力をかけ、目的の角度に曲げます。

曲げ加工では、材料のスプリングバック(弾性回復による角度の戻り)を考慮した調整が必要で、材質や板厚によって異なる調整が求められます。

また、製品の形状や寸法精度に大きく影響するため、曲げの順序や方向も重要です。複雑な形状の製品では、複数回の曲げ加工が必要となり、それぞれの曲げで干渉しないよう慎重な作業計画が求められます。

精密板金加工における曲げ加工の精度は、熟練した技術者の経験と高精度な機械設備によって支えられているのです。

溶接加工

溶接加工は、複数の板金部品を接合して一つの製品に仕上げる工程です。精密板金加工では、TIG溶接、スポット溶接、レーザー溶接などの方法が使用されます。TIG溶接は、タングステン電極とアルゴンガスを使用したアーク溶接で、鉄、ステンレス、アルミニウムなど様々な金属に対応可能です。

スポット溶接は、電極で金属を挟み、電流を流して局所的に溶かして接合する方法で、作業効率が高く歪みが少ないという特徴があります。レーザー溶接は、レーザービームの熱で金属を溶かして接合する方法で、精密な溶接が可能です。

溶接方法の選択は、材料の種類、板厚、求められる強度や外観品質などを考慮して決めます。特に精密板金では、溶接による歪みを最小限に抑えるための技術が重要です。

仕上げ加工

仕上げ加工は、製品の外観品質や機能性を高めるための最終工程です。主な仕上げ加工には、バリ取り、研磨、表面処理(塗装、メッキなど)があります。

バリ取りは、溶接部分や切断面に残った鋭利な部分を除去し、安全性と外観を向上させます。研磨は、表面を滑らかにしたり、ヘアライン、鏡面などの装飾的な仕上げを施したりする加工です。

表面処理は、耐食性の向上や外観の美化、機能性の付与などを目的として行われます。特に医療機器や食品機械では、衛生面を考慮した表面処理が重要です。

仕上げ加工の品質は、製品の最終的な価値を大きく左右するため、要求仕様に適した方法と技術が求められます。

組立・検査

組立・検査工程は、製品の最終仕上げと品質確認を行う重要なステップです。組立では、ネジ、リベット、かしめなどを使って各部品を組み合わせ、完成品に仕上げます。この際、部品同士の位置決めや隙間、強度などに注意が必要です。

組立に続く検査工程では、寸法検査、外観検査、機能検査などを実施し、製品が設計通りの仕様を満たしているかを確認します。寸法検査では、三次元測定機やノギス、マイクロメーターなどを使用して精密な測定を行います。

外観検査では、傷や変形、溶接・塗装の品質などをチェックします。これらの検査に合格した製品のみが出荷され、高品質な精密板金製品として顧客の手に届きます。

精密板金加工に使われる工具機器とは

精密板金加工に使われる工具機器とは

精密板金加工では、様々な専用設備を使用して高精度な加工を実現しています。主要な工具機器について解説します。

レーザー加工機

レーザー加工機は、精密板金加工において最も重要な設備の一つです。高エネルギーのレーザービームを使用して金属板を切断する機械で、複雑な形状も高精度に加工できます。

レーザー加工機には、CO2レーザーとファイバーレーザーの2種類があります。CO2レーザーは炭酸ガスを使用し、比較的コストが低いという特徴がありますが、金属の切断速度や精度ではファイバーレーザーに劣ります。

一方、ファイバーレーザーは光ファイバーを使用した最新技術で、高速かつ高精度な加工が可能です。

レーザー加工機の精度は非常に高く、±0.05mm程度の寸法精度を実現できます。CAD/CAMシステムと連携して動作するため、設計データから直接加工することができ、作業効率の向上にも役立っています。

プレスブレーキ

プレスブレーキは、金属板を曲げるための専用機械です。上型(パンチ)と下型(ダイ)の間に金属板を配置し、油圧や電動モーターの力で上型を下降させることで金属板を曲げます。プレスブレーキには、機械式、油圧式、電動式など様々な種類があり、サイズも小型から大型まで様々です。

最新のCNC(コンピュータ数値制御)プレスブレーキでは、曲げ角度やバックゲージ(位置決め装置)の調整を自動的に行うことができ、高精度な曲げ加工を実現します。曲げ加工の精度は、プレスブレーキの性能だけでなく、金型の精度や作業者の技術にも大きく依存します。特に精密板金加工では、±0.2mm以下の寸法公差を満たすために、高度な技術と経験が必要とされます。

溶接機

溶接機は、板金部品を接合するための重要な設備です。精密板金加工で主に使用される溶接機には、TIG溶接機、スポット溶接機、レーザー溶接機などがあります。

TIG溶接機は、タングステン電極とアルゴンガスを使用したアーク溶接機で、鉄、ステンレス、アルミニウムなど様々な金属の溶接に対応しています。溶接品質が高く、細かい部分の溶接にも適しています。

スポット溶接機は、電極で金属を挟み、大電流を短時間流すことで局所的に溶かして接合する溶接機です。作業効率が高く、歪みが少ないという特徴があります。

レーザー溶接機は、レーザービームの熱を利用して金属を溶接する機械で、高精度かつ微細な溶接が可能です。溶接による歪みが少なく、薄板の溶接にも適しています。

精密板金加工における溶接の品質は、製品の強度や外観に大きく影響するため、適切な溶接機の選択と操作技術が重要です。

精密板金加工を成功させるためのポイントとは

精密板金加工を成功させるためのポイントとは

精密板金加工を成功させるためには、いくつかの重要なポイントがあります。ここでは、特に重要な3つのポイントについて解説します。

材料を選定しコストを下げる

精密板金加工において、材料の選定は製品の品質とコストに大きく影響します。一般的に使用される材料には、鉄(SPCC、SECC)、ステンレス(SUS304、SUS430)、アルミニウム(A5052など)があり、それぞれ特性や価格が異なります。例えば、鉄は安価ですが錆びやすく、ステンレスは耐食性に優れていますが高価です。そのため、製品の用途や要求仕様に合わせて最適な材料を選ぶことが重要です。

また、材料の板厚や寸法も重要で、過剰な強度を持たせないことでコスト削減が可能です。さらに、定尺と呼ばれる標準サイズの材料を効率よく使用する設計を行うことで、材料のロスを最小限に抑え、コストダウンにつなげることができます。材料コストは製品原価の大きな部分を占めるため、適切な材料選定はコスト削減の重要なポイントです。

加工中の反りや割れに気を付ける

精密板金加工では、加工中に発生する反りや割れが品質不良の原因となることがあります。特に、曲げ加工や溶接加工では注意が必要です。曲げ加工では、材料の特性や板厚に合わせた適切な曲げ半径(R)を設定することが重要です。

曲げ半径が小さすぎると、材料の外側で引張応力が過大となり割れが発生する可能性があります。一般的には、板厚の1.5〜2.0倍以上の曲げ半径を確保することが推奨されます。

また、溶接加工では、熱による歪みが発生しやすいため、適切な溶接方法や順序を選択することが重要です。溶接による歪みを最小限に抑えるために、ピッチ溶接(間隔を空けて溶接する方法)やスポット溶接の採用、溶接順序の最適化などの工夫が有効です。

材料の特性を理解し、適切な加工条件を選択することで、反りや割れを防止し、高品質な製品を製造できます。

設計時の寸法を厳密に決定する

精密板金加工において、設計時の寸法設定は製品の品質とコストに大きく影響します。要求される精度を明確にし、必要以上に厳しい寸法公差を設定しないことが重要です。例えば、見えない部分や機能に影響しない部分には、比較的緩い公差を設定することでコスト削減が可能です。

一方、重要な機能部分や組立精度に影響する部分には、適切な公差を設定する必要があります。また、曲げ加工における寸法設定では、材料の伸び縮みを考慮した適切な展開寸法の計算が重要です。

材質や板厚、曲げ方向によって伸び率が異なるため、これらを正確に計算して展開図を作成することが、精度の高い製品製造につながります。

さらに、組立を考慮した設計も重要で、位置決めのための基準穴や基準面、組立順序を考慮した設計を行うことで、組立精度の向上と作業効率の改善につながります。

精密板金加工では、設計段階での配慮が製造工程全体の効率と品質に大きく影響するため、設計者と製造者の密接なコミュニケーションが不可欠です。

まとめ

精密板金加工は薄い金属板を高精度に加工する技術で、専用金型不要のため多品種少量生産や試作に最適です。

電子機器や医療機器などの分野で活用され、複雑形状への対応力、コスト削減、製作期間短縮といったメリットがあります。成功には適切な材料選定、反りや割れ防止、厳密な寸法設定が重要です。

各工程での高度な技術と経験が、高品質な精密板金製品を実現する鍵と言えるでしょう。

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