板金の曲げ加工とは?加工の種類やメリット、加工時の注意点を解説
2025年3月13日
板金の曲げ加工は、金属板を自在に折り曲げて立体的な形状を作り出す重要な技術です。製造業の基盤を支えるこの加工技術には、種類や方法、使用する機械、そして様々な注意点があります。
近年は、デジタル制御技術の発展により高精度な加工が可能になってきました。しかし、その反面で技術的な課題も存在します。
本記事では、板金の曲げ加工について、基礎から実践的な技術までを体系的に解説していきます。
板金とは
製造業の基盤技術である板金は、金属の板材を切断、曲げ、溶接などの加工を施して立体的な形状を作り出す技術です。自動車のボディや電気機器の筐体、建築資材など、私たちの生活に欠かせない製品に幅広く使用されています。近年は、レーザー加工機やサーボプレス機の登場により、高精度な加工が可能になりました。
板金の曲げ加工とは
金属の板材を曲げて立体的な形状を作り出す加工技術です。製造業の現場では最も基本的な工程の一つとして知られています。近年はデジタル技術の進歩により、より高度な加工が可能になってきました。
まずは、板金の曲げ加工について解説していきます。
原理
金属板を2点で支え、中央部に力を加えることで曲げ加工が始まります。この過程で、外側には引張応力が働いて伸び、内側には圧縮応力が作用して縮んでいきます。力を加える位置と支点間の距離は、曲げモーメントを決定づける重要な要素です。
その結果、加工後には材料の弾性により形状が若干戻るスプリングバックが起こってしまうため、これを見越した設計と加工が求められるでしょう。
材料
曲げ加工の主役となるのは、鉄鋼材料とアルミニウムなどの非鉄金属です。材料を選ぶ際は、加工のしやすさ、強度の確保、錆びにくさが重要なポイントです。
圧延方向で性質が変わる特徴があるため、設計段階で材料特性を十分理解しておく必要があります。とりわけ高精度な加工では、材料選定から慎重に検討を重ねていくことが大切でしょう。
板金の曲げ加工の種類とは
材料を金型で挟んで曲げる型曲げ、複数のロールで連続的に曲げる送り曲げ、複雑な曲面を作るフランジ成形など、様々な加工方法があります。製品の形状や要求精度、生産量によって最適な方法が選ばれます。
板金加工の主要な曲げ加工技術とその特徴について解説していきましょう。
型曲げ
上型(パンチ)と下型(ダイ)で材料を挟み込んで曲げる加工法が型曲げです。精度が高く生産性に優れており、最も一般的に使われています。金型の組み合わせで様々な形状に対応できるため、多品種少量生産にも向いています。
加工条件によってエアベンディング、ボトミング、コイニングの3種類があり、必要な精度に応じて使い分けられています。
エアベンディング
材料を3点でのみ接触させて曲げるため、1つの金型で様々な角度に対応できる柔軟性が特徴となっています。加工圧力が小さく済み、金型の寿命も長くなります。比較的シンプルな形状の部品製作に適していて、生産性とコストのバランスが取れた方法といえるでしょう。
コイニング
金型に強く押し付けて高精度な曲げを実現する方法です。大きな加圧力が必要で金型の摩耗も早いものの、最も高い精度が得られます。寸法精度が厳しい部品や、外観品質が重視される製品の製作に使われることが多いです。工具寿命とコストを考慮した使用が求められます。
ボトミング
エアベンディングとコイニングの中間的な特徴を持つ加工方法です。比較的小さな力で良好な精度が得られるため、最も広く採用されています。汎用性が高く、様々な板厚や材質に対応できることから、一般的な板金部品の製作に適しているといえるでしょう。
L字曲げ
材料を確実に固定して曲げる方法で、長尺物や大きな板材の加工に適しています。自重による変形を防ぎやすく、安定した品質が得られるのが特徴です。ただし、スプリングバックの制御が難しいため、高精度な加工には工夫が必要となってきます。
送り曲げ
複数のロールを使用して連続的に曲げを行う加工方法が特徴です。長尺物の加工に適しており、高い生産性を実現できます。パイプや建材などの製造でよく使われ、複雑な断面形状も作れるのが強みです。ただし、初期設定に時間がかかり、頻繁な形状変更には向いていません。
フランジ加工
複雑な曲面を持つ自動車部品などの製造に欠かせない加工技術です。内側に曲げる「伸びフランジ」と外側に曲げる「縮みフランジ」があり、材料の変形を精密にコントロールする必要があります。高度な技術と経験が求められ、シワや割れの防止が重要なポイントといえるでしょう。
板金の曲げ加工の金型の種類とは
板金加工の精度と効率を左右する重要な要素が金型です。パンチとダイの組み合わせにより、様々な形状の加工を実現しています。金型の選定は製品品質に直結するため、材料特性や加工条件を考慮した適切な選択が必要です。さらに、金型の寿命や保守管理も重要な課題となっています。
曲げ加工に使用される金型の種類と選定方法について解説していきましょう。
パンチ
上型となるパンチは材料を押し込む重要な役割を担っています。耐摩耗性が高い工具鋼で作られ、表面処理により寿命を延ばすことが可能です。角度や用途に応じて様々な形状があり、V型やL型が一般的。金型の選定時には加工形状だけでなく、材料特性も考慮に入れる必要があるのです。
ダダイ
下型となるダイは材料を受け止める重要な役割を果たします。V溝の形状が加工精度を大きく左右し、一般的に溝幅は板厚の6~8倍が目安です。適切な選択により、加工精度と工具寿命のバランスを取ることができます。材質や表面処理はパンチと同様の配慮が重要です。
選定方法
金型の選定では、加工形状、板厚、材質を総合的に判断していきます。リターンベンドグラフを活用して干渉チェックを行い、最適な加工順序を決定することが大切です。標準金型の使用はコスト面で有利ですが、特殊な形状には専用金型の製作も検討する必要があるでしょう。
板金の曲げ加工に使う加工機とは
現代の板金加工では、様々な専用機械が使われています。パネルベンダーは薄板加工に特化し、プレスブレーキは汎用性の高さが特徴です。それぞれの機械には得意分野があり、製品の特性に応じて使い分けることが重要です。
加工機の特徴と選び方のポイントについて解説していきましょう。
パネルベンダー
薄板加工に特化した機械で、1.6mm以下の板材を効率的に曲げられます。金型交換が少なく生産性が高いのが特徴で、複雑な形状の連続曲げも可能です。自動化が容易なため、大量生産に向いていますが、加工面に傷が付きやすいという欠点があります。
プレスブレーキ
最も広く使われている曲げ加工機で、様々な板厚や形状に対応できます。金型の交換で多様な加工が可能で、単品から量産まで幅広く活用されているのです。デジタル制御の導入により精度が向上し、操作性も改善されていますが、熟練の技術が必要な場面も多いでしょう。
板金の曲げ加工に限界があると言われる理由とは
板金の曲げ加工には、機械の性能や材料特性による制約があります。加工範囲や溝幅の限界は、製品設計の段階から考慮すべき重要な要素です。これらの制約を理解し、適切な対策を講じることで、高品質な製品を効率的に生産することが可能です。
曲げ加工の限界とその対処法について解説していきます。
加工範囲が限られる
機械の大きさと耐圧力の制限により、加工できる板厚や長さには上限があります。複雑な形状では金型との干渉も問題となり、設計変更が必要になることもあります。これらの制約は工場の設備によっても異なるため、事前の確認が重要です。
加工の溝幅に限界がある
ダイの溝幅は材料と板厚に応じて適切な範囲が決まっています。狭すぎると加工不良の原因となり、深い溝では機械との干渉や強度不足が問題になるでしょう。これらの制約を考慮した設計と、適切な金型の選択が求められます。
板金の曲げ加工時の注意点とは
曲げ加工の品質を確保するには、様々な技術的な注意点があります。材料の特性や加工条件を理解し、適切な対策を講じることが不可欠です。特に板厚の確認やスプリングバックへの対応、金型の選択など、細かな配慮が必要です。
生産効率と品質を両立させるための重要なポイントについて解説していきます。
板厚を確認する
板厚は加工条件を決める重要な要素として知られています。適切な金型選択や機械の能力確認が欠かせず、板厚が大きくなるほど必要な加工力も増加していきます。精度の確保も難しくなるため、材料選定の段階から慎重な検討が必要になるのです。
スプリングバックの対策をする
材料の弾性によって発生するスプリングバックは、精度に大きく影響を与えます。材質や板厚に応じて適切な過剰曲げ角度を設定し、必要に応じて試作での確認も行うことが重要です。経験値の蓄積と数値化により、安定した品質を確保できるでしょう。
リターンベンドグラフを活用する
複雑な形状の加工では、金型との干渉を事前にグラフで確認することが大切です。これにより適切な加工順序と金型の選択が可能となり、手戻りを防げます。グラフの読み方と活用方法の習得が、効率的な生産の鍵といえるでしょう。
曲げ部と穴位置を確認する
穴位置が曲げ部に近すぎると、変形や寸法不良の原因となってしまいます。一般的に板厚の3~5倍以上の距離確保が推奨され、それが難しい場合は曲げ加工後の穴加工を検討する必要があるでしょう。適切な加工順序の決定が重要なポイントとなるのです。
まとめ
板金の曲げ加工は、製品の品質を左右する重要な工程です。加工方法の選択から、材料特性の理解、適切な金型の選定まで、様々な要素を考慮する必要があります。特に、スプリングバックへの対応や穴位置の確認、リターンベンドグラフの活用など、基本的な注意点を押さえることが不可欠です。
これらの知識と技術を組み合わせることで、高品質な製品を効率的に生産することができるでしょう。