板金加工における溶接とは?目的や種類、注意点などを解説
2025年4月24日
板金加工において溶接は欠かせない技術です。金属同士を強固に接合する溶接は、機械部品や自動車、建築物など幅広い分野で活用されています。溶接によって金属が分子レベルで結合するため、非常に強固な接合が可能になります。
この記事では、板金加工における溶接の基礎知識から種類、メリット・デメリット、注意点までわかりやすく解説します。
板金加工の溶接とは
金属を接合する方法はいくつかありますが、その中でも溶接は最も強力な接合方法の一つです。
溶接とは、金属部材に熱や圧力を加えて溶かし、冷却して固めることで接合する加工方法です。接着剤やネジによる接合と異なり、接合部の金属同士が分子的に結びつくため、非常に強力な結合が形成されます。板金加工では、複数の金属板を接合したり、曲げ加工した部分を固定したりするために溶接が行われます。
目的
板金加工における溶接の主な目的は、複数の金属部品を一体化して強固な構造を作ることです。溶接によって気密性の高い接合が可能になるため、液体や気体を扱う容器や配管の製造に適しています。
また、ネジや接着剤を使わずに部品を接合できるため、部品点数を減らしコスト削減にもつながります。複雑な形状の部品も、単純な形状の板金を溶接して組み合わせることで、効率的に製造できる利点があります。
金属ごとの違い
溶接は金属の種類によって難易度や適した方法が大きく異なります。金属の融点、熱伝導率、酸化しやすさなどの特性が溶接のしやすさに影響します。例えば、炭素鋼は比較的溶接しやすいですが、ステンレス鋼やアルミニウムは特殊な技術や機器が必要になることがあります。また、異なる種類の金属同士の溶接は、融点の違いや金属間化合物の形成などの問題から、さらに難しくなります。
ここでは、代表的な金属の溶接特性について説明します。
アルミニウム
アルミニウムは溶接が比較的難しい素材の代表です。
アルミニウムは融点は低いものの、空気中の酸素と結合して融点の高い酸化皮膜を形成します。この酸化皮膜を溶かそうとすると、先に母材のアルミが溶けすぎてしまう問題があります。また熱伝導率が非常に高いため、溶接部の熱が広がりやすく、部材全体が歪みやすくなります。アルミニウムの溶接にはTIG溶接が適していますが、効率よく加熱し素早く溶接する技術が求められます。
鉄
鉄の溶接では、含まれている炭素量に注意が必要です。炭素が多い鉄は溶接時の急激な温度変化で内部の結晶構造が変化し、割れが発生したり粘り強さが失われたりする可能性があります。溶接には低炭素鋼を選ぶことが望ましく、SS材(一般構造用圧延鋼材)やSM材(溶接構造用圧延鋼材)は溶接に適しています。鉄の溶接にはTIG溶接や被覆アーク溶接が適しており、比較的安定した溶接が可能です。
ステンレス
ステンレスは種類によって組成が大きく異なり、溶接特性も変わります。溶接に適しているのはオーステナイト系のSUS304やSUS316で、これらは安定した溶接が可能です。一方、フェライト系のSUS430やマルテンサイト系のSUS410は溶接に向いていません。ステンレスの溶接では熱影響による変色や腐食に注意が必要で、適切なシールドガスと溶接方法の選択が重要になります。
板金加工で行う溶接の種類
溶接には大きく分けて「融接」「圧接」「ろう接」の3種類があります。それぞれの特徴と用途を理解し、適切な溶接方法を選ぶことが重要です。
ここでは板金加工でよく使われる代表的な溶接方法について解説します。
レーザー溶接
レーザー溶接は、レーザービームを照射した際に発生する熱で金属を溶かして接合する方法です。加熱範囲が極めて局所的で精密な溶接が可能なため、薄い素材でも歪みが少なく溶接できます。また熱影響が小さいため、精密部品の溶接に適しています。
CO2レーザーやYAGレーザーが代表的で、自動化により高精度・高品質な溶接が実現できます。ただし、光沢のある金属はレーザーを反射するため溶接が難しく、専用の設備が必要となるコストの問題もあります。
スポット溶接
スポット溶接は、2枚以上の金属板を重ね、電極で挟んで電流を流し、その部分を点状に溶接する方法です。自動車のボディなど、薄板の接合によく使われます。電極で挟み込むだけで素早く溶接できるため、生産性に優れています。また、溶接強度も十分で、比較的低コストで導入可能です。ただし、見た目に溶接痕が残るため、外観が重要な部品には不向きで、電極が届く範囲でしか溶接できないという制約もあります。
TIG溶接
TIG溶接は、タングステン電極とアルゴンガスを使って行うアーク溶接の一種です。電極が溶けないため、溶接部の品質が高く、ステンレスやアルミニウムなど様々な金属に対応できます。精密な溶接が可能で、溶接後の仕上がりも美しいのが特徴です。
一方で、作業者の技量に左右されやすく、生産性はあまり高くありません。また、シールドガスとして高価なアルゴンガスを使用するため、コストも比較的高めです。
半自動溶接
半自動溶接は、ワイヤーが自動供給される溶接機を使って手作業で行う溶接方法です。シールドガスの種類によってCO2溶接、MAG溶接、MIG溶接と呼び名が変わります。両手で作業ができ溶接速度も速いため、生産性が高いのが特徴です。比較的習得しやすく、厚板の溶接にも対応できます。
ただし、溶接時にスパッタ(飛び散った金属粒子)が発生しやすく、薄板の溶接では熱による歪みが生じやすいという欠点もあります。
ガス溶接
ガス溶接は、アセチレンや都市ガスなどの可燃性ガスを燃焼させ、その熱で金属を溶かして溶接する方法です。温度調整や作業中の加工部の確認が容易で、比較的簡単に溶接作業ができます。設備も小型で安価なため、現場での補修作業などに適しています。
しかし、アークやレーザーに比べて加熱が遅く、作業時間がかかります。また、加熱範囲が広くなるため材料が歪みやすく、ガスの取り扱いには危険も伴います。この溶接を行うには「ガス溶接技能者」の資格が必要です。
ろう溶接
ろう溶接は、母材よりも融点の低い金属(ろう)を使用して接合する方法です。母材自体は溶かさないため、材料への熱影響が少なく、異種金属の接合にも適しています。ろう付けとはんだ付けがあり、融点450℃以上のろうを使用するのがろう付け、それ以下の融点のろうを使用するのがはんだ付けです。強度は他の溶接方法より劣りますが、精密部品や電子部品の接合などに広く使われています。
ロボット溶接
ロボット溶接は、産業用ロボットを使って自動的に溶接を行う方法です。スポット溶接やシーム溶接はもともとロボット化が進んでいましたが、近年ではアーク溶接やレーザー溶接でもロボット化が進んでいます。協働ロボットの活用により、手でロボットをガイドしたり、画像認識で溶接範囲を自動検出したりなど、プログラミングの手間を減らす技術も登場しています。安定した品質の溶接が可能で、生産性も向上しますが、導入コストが高いという課題もあります。
板金加工の溶接のメリット
溶接による板金加工には多くのメリットがあります。ここでは主なメリットについて解説し、どのような場面で溶接が効果的かを見ていきましょう。
コストが削減しやすい
溶接による板金加工は、複雑な形状の部品製造においてコスト削減効果が高いです。複雑な形状を一体で切削加工するよりも、単純な形状の板金部品を溶接で組み合わせる方が材料費や加工費を抑えられます。
また、ネジや接着剤といった追加部品も不要なため、部品点数が減り、材料費だけでなく在庫管理コストも削減できます。さらに、適切な溶接方法を選べば、少量多品種生産でも比較的低コストで対応できるため、試作品や小ロット生産にも適しています。
作業がしやすく多品種生産に向いている
溶接は様々な形状や材質の部品に対応できる柔軟性があります。同じ設備でも、溶接条件を変えることで異なる材料や板厚に対応できるため、多品種生産に適しています。特に手作業による溶接では、図面から直接作業できるため、金型などの準備が必要なプレス加工などと比べて、少量多品種生産の場合に初期コストを抑えられます。
また、溶接技術の進歩により、薄板から厚板まで様々な材料に対応できるようになっており、一つの工場で幅広い製品を製造することが可能です。
板金加工の溶接のデメリット
溶接にはメリットがある一方で、いくつかの注意すべき課題もあります。ここでは溶接のデメリットとその対策について考えてみましょう。
品質が不均一になりやすい
手作業による溶接では、作業者の技量によって溶接品質にばらつきが生じやすいという問題があります。特に熟練した技術者の確保が難しい現在、安定した溶接品質を維持することは課題となっています。溶接不良は製品の強度低下や気密性の喪失につながるため、重要な部分には非破壊検査などの品質確認が必要となり、これが追加コストになることもあります。
ロボット溶接の導入で品質の均一化が図れますが、設備投資が必要で、複雑な形状への対応には高度なプログラミング技術が求められます。
失敗した場合の修正が困難
溶接の大きな難点は、一度溶接してしまうと修正が難しい点です。溶接不良が発生した場合、溶接部を切断して再溶接するか、場合によっては部品全体を作り直す必要があります。これは時間とコストの両面で大きな損失となります。また、溶接後の歪みが許容範囲を超えた場合も修正が難しく、特に精密な部品では致命的な問題となることがあります。そのため、溶接前の十分な計画と、溶接後の歪みを見越した設計が重要です。
板金加工における溶接のポイント
品質の高い溶接を実現するためには、いくつかの重要なポイントがあります。ここでは溶接作業を成功させるためのポイントを解説します。
歪みや溶接不良に注意する
溶接時の熱による歪みは避けられない問題です。溶接部分が加熱されて膨張し、冷却時に収縮するため、部材に応力がかかり歪みが生じます。この歪みを最小限に抑えるためには、溶接順序の工夫や溶接前の仮止め、適切な溶接方法の選択が重要です。
また、溶接不良を防ぐために、溶接部の清掃や適切なシールドガスの使用、適切な溶接条件の設定も欠かせません。特に重要な部分の溶接では、非破壊検査などによる品質確認を行うことで、不良を早期に発見することができます。
溶接に向かない金属は選定しないようにする
すべての金属が溶接に適しているわけではありません。材料選定の段階で溶接適性を考慮することが重要です。例えば、高炭素鋼は溶接による割れが発生しやすく、フェライト系ステンレスは溶接部の耐食性が低下しやすいという問題があります。アルミニウムも溶接が難しい金属の一つで、特に異なる種類のアルミニウム合金同士の溶接は避けるべきです。
設計段階で溶接に適した材料を選ぶことで、製造過程でのトラブルを大幅に減らすことができます。必要に応じて、溶接ではなくボルト締結や接着などの代替方法も検討すべきでしょう。
安全対策を行う
溶接作業には健康リスクが伴います。特に問題となるのが「溶接ヒューム」と呼ばれる金属粒子を含む煙です。これを吸引すると健康障害を引き起こす可能性があります。2021年4月からは溶接ヒュームが特定化学物質に指定され、作業環境の管理が義務付けられました。適切な換気設備の設置や呼吸用保護具の着用が必要です。
また、火災や感電のリスクもあるため、作業場の整理整頓や適切な保護具の着用、資格を持った作業者による作業の実施など、安全対策の徹底が不可欠です。
まとめ
板金加工における溶接は、金属部品を強固に接合するための重要な技術です。融接、圧接、ろう接など様々な溶接方法があり、それぞれに特徴やメリット・デメリットがあります。溶接の大きな利点は、強固な接合と気密性の高さ、部品点数の削減によるコストダウンなどですが、熱による歪みや品質のばらつき、修正の難しさといった課題もあります。
適切な溶接方法の選択には、材料の特性や製品の要求精度、生産量などを考慮する必要があります。また、溶接作業には健康リスクも伴うため、適切な安全対策も欠かせません。
板金加工において溶接は避けて通れない重要な工程です。その特性や注意点を理解し、適切に活用することで、高品質な製品を効率よく製造することができるでしょう。