チタン加工の基礎知識!特徴や加工法、具体的な加工ポイントなどを解説
2025年4月10日
チタンは軽量でありながら高強度、さらに優れた耐食性を持つ金属素材として、航空宇宙分野から医療機器、一般産業まで幅広く活用されています。その特性から「夢の金属」とも呼ばれるチタンですが、その優れた特性ゆえに加工が難しいとされています。
この記事では、チタンの基本的な特徴から加工方法、加工時の注意点まで詳しく解説します。
チタンとは
チタンの特性を理解し、適切な加工方法を選ぶことで、高品質なチタン製品の製作が可能になります。
はじめに、チタン金属について解説します。
特徴
チタンは多くの優れた特性を持つ金属です。その代表的な特徴を詳しく見ていきましょう。
軽量
チタンの比重は約4.5で、鉄(7.8)の約60%、ステンレス鋼の約2/3程度の重さしかありません。アルミニウム(2.7)より重いものの、同じ強度を得るためのサイズでは軽くなることが多いです。
この軽量性は航空機部品や自転車フレームなど、軽量化が求められる製品に適しています。このように優れた軽量性と高強度という特性のバランスが、チタンが様々な産業で重宝される理由の一つです。
高強度
チタンは軽量でありながら非常に高い強度を持ちます。特にチタン合金の場合、その比強度(強度を比重で割った値)はステンレス(SUS304)の約3倍にも達します。
純チタンでも高い強度を持ちますが、モリブデンなどの金属を添加したチタン合金はさらに強化され、厳しい条件下でも使用可能です。
また、600℃程度の高温域でも他の金属素材より優れた強度を維持できるため、高温環境での利用にも適しています。
ヤング率の低さ
チタンはヤング率(弾性率)が鉄の約半分と低く、これが加工の難しさに繋がる一因となっています。
ヤング率が低いということは、同じ力を加えた時の変形量が大きいことを意味します。そのため、加工時にはたわみやすく、特に薄い板材などを加工する際には「びびり」と呼ばれる振動が発生しやすくなります。
これによって表面にうろこ状の加工痕が残ったり、精度が低下したりする問題が生じることがあるのです。
熱伝導性の低さ
チタンの熱伝導率は約7.5W/(m・K)と、ステンレス(SUS304)の半分程度しかありません。低い熱伝導性は、切削加工時に発生した熱が素材を通じて逃げにくく、工具と加工部分に熱が集中する原因となります。
その結果、工具の摩耗が早くなり、寿命が短くなるという問題があります。さらに、熱による材料の軟化や変形も起こりやすくなるため、加工時には冷却を十分に行うなどの対策が必要になることが多いです。
腐食しにくさ
チタンの最も優れた特性の一つが高い耐食性です。チタンは空気中の酸素と反応して表面に強固な酸化皮膜(不動態皮膜)を形成し、それ以上の酸化を防ぎます。
この酸化皮膜は塩素イオンに対しても強く、海水環境での耐食性はステンレスよりも優れています。このため、海洋構造物や化学プラントなど、腐食環境下で使用される部品に適しています。
また、人体に対する生体親和性も高いため、医療用インプラントにも広く利用されています。
種類
チタンにはいくつか種類があり、それぞれに特徴があります。
純チタン
チタンはJIS規格で1種から4種まで分類されています。
1種が最も純度が高く柔らかく、4種になるにつれて純度が低下し硬くなります。1種は加工性に優れるため、複雑な形状の製品に適していますが、強度は比較的低めです。対して4種は強度が高く、より過酷な環境での使用に適しています。
純チタンは耐食性に優れ、医療機器や食品機械、化学プラントなどに多く使用されています。チタンはその特性上、金属アレルギーを引き起こしにくいため、装飾品などの人体に接触する製品にも適しているのが特徴です。
チタンの加工が難しい4つの理由
チタンは優れた特性を持つ反面、加工が難しい金属としても知られています。その理由を詳しく見ていきましょう。
強度が高く溶接や切削がしにくい
チタンの高い強度は、切削抵抗を大きくし、工具への負担を増大させます。切削加工時には強い力が必要となり、それにより発生する熱も大きくなります。特にチタン合金では、その硬さから工具の摩耗が早く、頻繁な工具交換が必要になることもあります。
また溶接においても、チタンの溶融温度が約1,670℃と高く、通常の溶接方法では困難を伴います。さらに、溶接部が大気に触れると脆化現象が起きやすく、溶接品質に問題が生じる可能性があるため、特殊な環境や技術が必要です。
熱伝導率が低いため工具に負担がかかりやすい
チタンの熱伝導率の低さは、切削加工において大きな問題となります。一般的な金属と違い、チタンは切削時に発生した熱を効率よく逃がすことができません。
その結果、切削点の温度が急激に上昇し、工具と材料の間に高い摩擦熱が発生します。この熱が工具の先端に集中することで、工具の摩耗や破損が早まります。
また、熱によって材料が軟化し、切りくずが工具に融着するなどの問題も起こりやすくなります。このため、チタン加工では適切な冷却と低速での加工が重要になるのです。
変形しやすいためたわみが発生しやすい
チタンのヤング率の低さは、加工時の安定性に影響します。力を加えると大きく変形(たわみ)が生じるため、切削加工中に振動(びびり)が発生しやすくなります。
このびびりは表面品質を損なうだけでなく、寸法精度にも悪影響を及ぼします。特に薄物の加工では、この問題がより顕著になり、チタン板が撓んで工具との接触が不安定になることがあります。
また、曲げ加工においても、スプリングバックと呼ばれる現象が強く現れ、予測通りの角度に曲げることが難しくなります。そのため、チタンの加工では材料の剛性を高める治具の使用や、変形を考慮した加工設計が欠かせません。
活性率が高く性質が変わりやすい
チタンは化学的に非常に活性な金属で、特に高温下では酸素や窒素などの気体と容易に反応します。
切削や溶接などの加工中に高温となった部分が大気に触れると、表面が酸化して硬く脆い層を形成します。この層は機械的特性を著しく低下させ、製品の品質に悪影響を及ぼします。
また、チタンは他の金属との親和性も高いため、工具材料との間で焼き付きを起こしやすく、工具寿命を短くする原因にもなります。さらに、チタンの切りくずは発火しやすい性質があり、加工時の火災リスクも考慮する必要があります。
これらのリスクを回避するため、チタン加工では不活性ガスによる保護や特殊な工具の使用が必要となることが多いのです。
チタン加工の4つのメリット
チタンは加工が難しい一方で、製品として多くのメリットをもたらします。主なメリットを見ていきましょう。
素材が軽いため軽量化に適している
チタンは鉄の約60%、ステンレスの約2/3の重さしかなく、同じ強度を持つアルミニウム製品と比較しても軽量化が可能なケースが多くあります。
そのため、航空宇宙分野の部品や医療機器、スポーツ用品など、軽量化が求められる製品に大きなメリットをもたらします。
例えば航空機のエンジン部品や機体構造にチタンを使用することで、燃費向上や積載量増加といった効果が得られます。
また、輸送機器においても重量削減によるエネルギー効率の向上が期待できます。さらに、大型機械設備では、重量が軽くなることで設置場所の制約が減り、2階以上への設置も容易になるなど、設計の自由度を高めることが可能です。
腐食しにくく長期間利用できる
チタンの優れた耐食性は、製品の長寿命化につながります。海水や塩素イオンを含む環境でも腐食しにくいため、海洋構造物や化学プラント、排煙脱硫装置など、厳しい腐食環境での使用に適しています。
また、酸やアルカリに対する耐性も高く、多くの化学物質に対して安定した性能を発揮します。
このような耐食性の高さから、初期コストは高くなるものの、長期的には部品交換や保守の頻度が減少し、ライフサイクルコストの低減につながります。
さらに、腐食による性能劣化が少ないため、長期間にわたって安定した機能を維持できることも大きなメリットといえるでしょう。
金属アレルギーを引き起こしにくいため幅広く使える
チタンは生体親和性が高く、人体に対して毒性がなく、金属アレルギーを引き起こす可能性が非常に低い金属です。このため、医療用インプラントや歯科材料、装飾品など、人体に接触する製品に最適な素材といえるでしょう。
特に、骨と直接結合(骨結合)する特性を持ち、長期間体内に埋め込んでも拒否反応を起こしにくいことから、人工関節や歯科インプラントなどに広く使用されています。
また、熱伝導率が低いため皮膚に触れたときの冷たさが少なく、装飾品としても快適に使用できます。
さらに、チタンの表面に形成される酸化皮膜は抗菌性を持つことから、食器などの衛生面が重視される製品にも使用されており、用途の幅広さもチタンのメリットといえるでしょう。
チタンの具体的な加工方法
チタンの特性を理解した上で、具体的な加工方法について見ていきましょう。
切断加工
チタンの切断加工には、主に非接触方式のレーザー加工やワイヤーカット加工が適しています。
レーザー加工はレーザービームを照射して材料を溶かし切断する方法で、高精度かつ変形が少ない特徴があります。チタンの硬度の高さと反応性から、一般的な機械的切断法では工具の摩耗が激しく、また発火のリスクもあるため、非接触切断が推奨されます。
シャーリング加工も大量生産には適していますが、板厚が薄い場合に限られます。ワイヤーカット加工は放電を利用して材料を溶かしながら切断するため、複雑な形状でも高精度な加工が可能です。
いずれの方法でも、チタンの切断は熱の蓄積を抑えることが重要で、適切な冷却と速度調整が必要です。
切削加工
チタンの切削加工は、マシニングセンタ、フライス盤、旋盤などで行われますが、その難削性から特別な注意が必要です。切削時には低速で行い、切削熱の発生を抑えることが重要です。
通常の金属より切削速度を30〜50%程度落とし、工具の摩耗を最小限に抑える必要があります。
また、切削油剤を十分に使用し、工具と材料の冷却と潤滑を確保することも欠かせません。工具選択においては、チタンカーバイドを含まない超硬合金(K10やK20など)が推奨され、鋭利な刃先を維持することが重要です。
さらに、剛性の高い工作機械や治具を用いてびびりを抑制することも、安定した切削加工には不可欠です。
曲げ加工
チタンの曲げ加工は、ヤング率の低さに起因するスプリングバックの問題があります。スプリングバックとは、曲げ加工後に材料が元の形状に戻ろうとする現象で、チタンでは特に顕著です。
このため、目標の角度より5〜15%程度深く曲げる必要があります。また、チタンは塑性異方性(方向によって変形のしやすさが異なる性質)が大きいため、圧延方向に対して適切な角度で曲げることも重要です。
曲げ加工は常温でも可能ですが、場合によっては300〜500℃程度に加熱して行うことで、スプリングバックを軽減し、割れのリスクを減らすことができます。
さらに、曲げ半径を板厚の2倍以上確保することで、材料の損傷を防ぎながら安定した曲げ加工が可能です。
穴あけ加工
チタンの穴あけ加工は、熱伝導率の低さと高い強度により非常に難しいとされています。ドリル加工を行う際には、切削速度を通常の30〜50%程度に落とし、送り速度を適切に保つことが重要です。
また、チタン専用のドリルビットや高性能なコーティングを施したドリルを使用することで、工具寿命を延ばせます。
さらに、水溶性の切削油を十分に供給し、熱の蓄積を防ぐことも必要です。特にドリルの場合、穴の奥に切りくずが詰まりやすいため、定期的に引き上げて切りくずを排出する「ペッキング」と呼ばれる手法が有効です。
また、ステップドリルや複数回に分けた穴あけなど、熱と圧力を分散させる工夫も、チタンの穴あけ加工では効果的です。
研磨加工
チタンの研磨加工では、表面仕上げの品質向上やデザイン性の付与を目的として行われます。主な研磨方法には、ブラスト加工、ヘアライン加工、鏡面研磨などがあります。
ブラスト加工ではアルミナやガラスビーズなどの研磨材を吹き付けることで、均一な梨地状の表面を作り出します。ヘアライン加工は研磨ベルトや砥石を使って一定方向に筋目をつける加工で、高級感のある見た目に仕上がります。
鏡面研磨はバフ研磨や化学研磨、電解研磨などの方法で行われ、光沢のある表面を得ることが可能です。チタンの研磨では、硬度が高く変形しやすい性質から、適切な研磨材や加工条件の選択が重要です。
また、研磨によって表面の酸化皮膜が除去されるため、処理後には適切な表面保護処理を行うことも重要です。
溶接加工
チタンの溶接は、その高い反応性から特別な注意が必要です。最も一般的なのはTIG溶接(タングステン不活性ガスアーク溶接)で、アルゴンなどの不活性ガスで溶接部を保護しながら行います。
チタンは溶接時に酸素や窒素と反応すると脆化するため、溶接部だけでなく、その周辺も含めて十分なガスシールドが必要です。また、溶接前の表面清浄化も重要で、油脂や酸化物を完全に除去する必要があります。
MIG溶接や電子ビーム溶接、レーザー溶接なども用いられますが、いずれも不活性雰囲気中での作業が基本です。
特に薄板の溶接では、熱による変形を抑えるために、パルス電流を用いたりバッキングプレートを使用したりするなどの工夫が必要となります。適切な条件で溶接を行えば、母材強度の90%以上の継手強度が得られ、高品質な溶接が可能です。
意匠加工
チタンの意匠加工は、その表面に多彩な色彩や模様を付与する技術です。代表的な方法には、陽極酸化法、大気酸化法、化学酸化法などがあります。
陽極酸化法は電解液中でチタンを陽極として電流を流し、表面に干渉色を付ける方法で、電圧により色調を制御できます。大気酸化法は、チタンを500〜700℃で加熱し、表面の酸化皮膜の厚さにより色彩を変化させる方法です。
どちらも皮膜の厚さによる光の干渉効果を利用しており、青、紫、金、茶など様々な色調を再現可能です。
また、レーザーやエッチングによる表面の凹凸加工、特殊な電解処理による黒染めなど、多様な表面処理技術も発展しています。これらの意匠加工は、建築材料や装飾品など、デザイン性が重視される製品に幅広く活用されています。
チタン加工時のポイント
チタンの加工を成功させるためのポイントをいくつか紹介します。
工具や機器を選定する
チタン加工では、適切な工具と機器の選定が重要です。切削工具としては、チタンカーバイドを含まない超硬合金(K10、K20など)や、コバルト高速度鋼が推奨されます。
また、TiAlNやTiCNなどの特殊コーティングを施した工具も効果的です。工具形状においては、正のすくい角と鋭利な切れ刃を持つものが切削抵抗を低減するため、チタンの加工に適しています。
工作機械は高剛性のものを選び、加工時の振動を最小限に抑えることが重要です。さらに、クーラント供給システムも重要な要素で、高圧クーラントが切削点に直接届くよう設計されたものが望ましいです。
また、専用の治具やクランプを用いることで、加工中のワークの変形やたわみを防ぎ、より精度の高い加工が可能になります。
切削速度を調節する
チタン加工において、適切な切削速度の選択は非常に重要です。
一般的に、チタンの切削速度は同等の硬さを持つ鋼材の30〜50%程度に抑える必要があります。
例えば、旋削加工では30〜60m/分、フライス加工では20〜40m/分、ドリル加工では10〜30m/分程度が推奨されます。速度が速すぎると切削熱が急激に上昇し、工具の摩耗が加速するだけでなく、チタンと工具の間で反応が起こり、工具の寿命が著しく低下します。
一方で、送り速度は比較的大きくして良く、これにより切りくずの厚みを確保し、刃先への負荷集中を避けられます。
また、一定の切削深さを維持することも重要で、表面硬化層を一度に切削することで工具寿命を延ばすことが可能です。加工条件は使用する工具や機械、チタンの種類によっても異なるため、事前のテストや経験に基づいた調整が必要です。
切削油を活用する
チタン加工では、適切な切削油の使用が工具寿命と加工品質に大きく影響します。
切削油には主に冷却効果と潤滑効果があり、チタンの熱伝導率の低さを補い、工具と材料間の摩擦を減少させる役割を果たします。水溶性切削油は冷却性に優れるため、高速切削や連続加工に適しています。
一方、不水溶性切削油(油性切削油)は潤滑性に優れ、低速や重切削条件に適しています。
チタン加工では、特にクロロパラフィンやイオウ系の添加剤を含む切削油が効果的とされていますが、環境への配慮から代替添加剤の研究も進んでいます。切削油の供給方法も重要で、高圧・大量供給や、工具内部に冷却液を通す内部給油システムなどが有効です。
また、ミスト供給や極低温冷却(クライオジェニック冷却)なども、チタンの難削性を克服するための先進技術として注目されています。
まとめ
チタンは軽量で高強度、優れた耐食性を持つ金属ですが、その特性ゆえに加工が難しいとされています。強度の高さ、熱伝導率の低さ、変形のしやすさ、化学的活性の高さが主な理由です。
適切な工具選定、切削速度の調整、切削油の活用など、チタンの特性を理解した加工方法を選択することが重要です。日々進化する加工技術を活用すれば、チタンの難削性を克服し、その優れた特性を最大限に活かした製品を生み出せるでしょう。